大判例

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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)741号 判決

本籍

埼玉県秩父郡上吉村大字女形七六〇番地

住居

同県同郡影森村大字下影森八六番地

小運搬業

福島歌次

明治三一年一月二〇日生

本籍

長野県下水内郡永田村大字永江六六八七番地

住居

埼玉県秩父郡秩父町大字大宮二四九八番地

無職(元小運搬業)

市川徳治

明治三三年一月二六日生

本籍

埼玉県秩父郡秩父町大字大宮一五七四番地

住居

前同所一三二六番地

小運搬業

渡邊正男

大正五年四月一日生

右の者等に対する窃盗各被告事件について昭和二五年三月四日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人等の負担とする。

理由

被告人等三名の弁護人得津良之助の上告趣意は末尾に添えた書面記載のとおりである。

論旨一について。

原判決の維持する第一審判決は、その判示事実と判決挙示の証拠とを対照して考えると、被告人等および第一審相被告人田端近太郎は小運搬業を営み、秩父通運株式会社秩父支店の常傭として、同会社秩父支店長浅野弘一の保管に係る水粳玄米を同支店倉庫から食糧配給公団秩父支所精米所へ運搬する労務に従事中、判示のようにその運搬途上においてこれを窃取したとの事実を認定したものであつて、この判示事実によれば、前記支店長浅野弘一が秩父通運株式会社のために本件運搬中の水粳玄米を占有保管していたものであつて、被告人等は右会社秩父支店の水粳玄米の運搬に関する業務を補助するというに過ぎず、所論のように独立の運搬人としてみずからの危険と責任とにおいてこれを運搬したものではないから、被告人等のみが運搬中の本件玄米を占有していたとなすべきではない。そして右の事実は第一審判決挙示の各証拠、特に浅野弘一作成に係る窃盗被害届、および被告人等が前記会社に常傭されているとの記載のある起訴状記載の犯罪事実全部を認める旨の第一審公判調査中の被告人等の供述記載等によつて十分認め得るのであるから、判示事実における被告人等の所為を窃盗罪に問擬した第一審判決を維持した原判決は結局正当であつて、この点原判決の判断はなんら所論判例に違反するものではない。されば論旨は理由がない。

また本件について刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。

よつて同法四〇八条、一八一条に従い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 島保 裁判官 河村又介)

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